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住宅ローンがある場合の財産分与について

1.住宅ローンよりも不動産の価値の方が高い場合

財産分与の対象となる不動産に住宅ローンが残っている場合、その不動産の本来の価格から住宅ローンの残額を差し引いた金額が、その不動産の価値であると考えます。たとえその不動産を売却しても、その代金から優先的に住宅ローンの返済に充てられることから、住宅ローンが残っている部分についてはいまだ自分たちの財産になっていないと考えるのです。

そうすると、財産分与の割合(夫婦の貢献度)が5:5である通常のケースにおいては、不動産を第三者に売却する場合には、売却代金を売却費用の支払いとローンの返済に充て、夫婦がその残額を2分の1ずつ取得します。

これに対して、夫婦のいずれかが不動産を取得する場合には、住宅ローン残額を差し引いた金額の2分の1を相手方に支払い、その後は取得者が自分の財産から住宅ローンを返済していくことが通常です。

なお、財産分与によって住宅ローンの負担者が変更されても、金融機関の同意を得て債務者変更の手続をとらない限り、離婚した二人の間における変更にすぎません(離婚した相手方に対しては「自分には住宅ローンを支払う義務はない」と主張できますが、債権者である金融機関に対しては主張できないということです)。

2.住宅ローンよりも不動産の価値の方が低い場合(オーバーローンの場合)

これに対して、住宅ローンの残額が不動産の価値を超えている、いわゆるオーバーローンの場合はどうなるでしょうか。

従前は、不動産の本来の価格から住宅ローンの残額を差し引いた金額がマイナスとなるため、多くの裁判例において、このような不動産の価値はゼロであると考え(東京地裁平成15年3月27日判決など)、オーバーローンの不動産を財産分与の対象とはしない、とした裁判例・運用も多くありました。

しかし、現在、名古屋家庭裁判所においては、オーバーローン不動産をマイナスの財産であるとして扱っています。そのため、他に預貯金などがある場合には、それらの財産から不動産のマイナス部分を控除して計算するとの運用が広く採用されています(例えば、夫の財産として不動産(評価額500万円・住宅ローン残1000万円)と1000万円の預貯金が存在する場合、夫名義の財産は500万円と算定されます)。

3.オーバーローン不動産が共有名義となっている場合の処理方法について

まず、調停段階で話し合いがまとまった場合には、オーバーローン不動産も含めた形の条項を作ることで、後の紛争を回避することが重要です。

また、裁判に至ったとしても、和解が成立する場合には、同じく和解条項において解決することが妥当といえます。

裁判において和解が成立せず、判決に至った場合でも、オーバーローンと考えられる不動産について共有持分の分与を認めた判決(東京地裁平成17年12月20日)がありますが、そのような判決にはならなかった場合には、共有不動産が残存することとなります。

このように、離婚事件において、オーバーローンの不動産が財産分与の対象となされず、共有名義のままで残存してしまった場合に関しては、離婚した当事者間の紛争ではないですが、東京地裁平成18年6月15日判決が参考になります。

この判決は、原告が、離婚した元妻の妹である被告に対して、原告・被告が共有する建物について共有物分割を求めた事案に関するものです。

この建物は、登記上は原告・被告が2分の1ずつ共有していますが、被告名義の住宅ローンの残額が建物の価格を上回っていました。

裁判所は、原告・被告の実質的な持分割合を3:7であることを前提に、建物を売却した場合にローン債務が残存すると考えられること、被告らとの対立から原告が建物に居住する可能性がほとんどないことを理由に、被告に建物全部を取得させる全面的価格賠償を採用しました。

さらに、その代償金の計算において、原告は「本件建物の基準額の算定においては、住宅ローンの控除を行わず、本件建物の時価たる3461万9256円とすべきである」と主張したものの、裁判所はこの主張を認めませんでした。

その理由として、本件は離婚の際における財産分与と状況が類似しており、「離婚財産分与においては、通常、不動産の時価から債務額を控除した残額が財産分与に当たって考慮されるにとどまり、オーバーローンの場合、ことに本件のように不動産を取得する側が債務をも全面的に負担する場合には、オーバーローンに係る不動産は財産分与に当たって考慮の対象とされないことを考慮すべきである」、として、原告の請求額よりも大幅に少ない100万円を代償金として定めました。